泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「佳乃、俺にもひと口頂戴?」

「⋯うん」


フォークが私の手へと渡り、目の前には綺麗な顔をした拓海が「あ、」と口を開いている。口を開けたその顔にさえドキドキしてしまう私は相当拓海に心を奪われている。


「美味しい?」

「うん、おいしい」

「それは、よかった」

「⋯結婚式ではさ、こうやってケーキを食べさせ合う事があるんだって」

「けっ、こんしき⋯?」


いきなり飛び出した“結婚式”のワードに大袈裟に取り乱してしまう私は少し意識し過ぎなのかもしれない。だけど、大好きな人だからそういう言葉に敏感に反応してしまうのは仕方ないって事で許して欲しい。


「ファーストバイトって言うんだって」

「⋯へ、へぇ」

「佳乃顔赤いけど」

「⋯っ!」


全て分かっていてそう言って揶揄う拓海は本当に狡い。だけど楽しそうに愛しそうに私を見つめて拓海が笑ってくれる事が嬉しくて。

顔の熱が下がらず赤いままの私にクスりと微笑む拓海がそっと私の左手を取って、もう片方の手で私の左手を撫でた。

拓海の両手に包まれる様に握られた手から血液が全身を駆け巡る様な感覚がして、ドクドクと鼓動が速くなっていく。


「遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとう」

「⋯っ」

「生まれてきてくれてありがとう」

「っ」

「これからもよろしく」


重ねた手をぎゅっと握った後、ゆっくりとその手を上げて私の手の甲にキスを落とした拓海は、まるで王子様のようだった。

唇が触れたところからじんわりと拓海の愛情が私の中に入ってくる。

生まれてきてくれてありがとうとこれからもよろしくを私に言ってくれる拓海は間違いなく運命の人だって、夢見がちだと笑われてしまうかもしれないけど、強くそう思った。