泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】




五分ほどして戻ってきた拓海の手には白いビニール袋がぶら下がっている。


「佳乃、ここ座って」


そして海を横に防波堤の上に座った拓海は自分の向かい側に視線を向けて座るように促した。


「何か買ってきたの?」

「いいからいいから」

「?」


拓海が何を企んでいるのか分からなくて首を傾げながらも言われた通り向かい側に座る。

ふわりと秋風が頬を擽った。


「寒い?」

「ううん、大丈夫」


上着を着ている為寒くはなく首を振って答えれば拓海は「じゃあ、目閉じて」とまたもや意味の分からない事を言う。


「目、閉じるの?」

「うん。いいよって言ったら開けて」

「⋯なんで?」

「まあ、いいからいいから」


楽しそうな拓海の意図する事が分からなくて頭の中にははてなマークが浮かぶけれどとりあえず言われた通りに目を閉じてみる。

すると波音に混ざり聞こえてくるのはビニール袋がガサゴソと擦れる音で。

何を買ってきたんだろう⋯?と思いながら拓海に「いいよ」と言われるのを待った。


「佳乃、いいよ」


楽しそうに跳ねる様な声に私はそっと目を開けて──────。


「⋯⋯っ」

「じゃん!急いでそこのコンビニで買ってきた」

「っ誕生日ケーキ?」

「そうだよ」


満面の笑みで両手を“それ”に向けて広げる拓海はいつもより幼く見えて、それが堪らなく愛しく思えた。

拓海が買って来てくれた“それ”はコンビニで売っている一切れのショートケーキで、どうやら私の為に急遽誕生日ケーキを用意してくれたらしい。


「コンビニの安物で申し訳ないけど」

「そんな事ないよ、嬉しい!」

「喜んでもらえてよかった」


ホッと安心した様に息を吐いた拓海は「はい、どーぞ」とケーキの蓋を取ってフォークでひと口サイズに切り取ると、ケーキの刺さったフォークを私の口へと運んだ。


「一人で食べられるよ」

「いいから。あーん」

「⋯あー、ん」


あーんと食べさせてもらうのはかなり恥ずかしかったけど、遠慮なく拓海が口へとフォークを近付けてくるから最終的には口を開けてそれを受け入れる。


「っん!美味しい!」

「もうひと口食べる?」

「食べる」


そして結局は私もまた食べさせてもらいながら、甘いクリームと柔らかいスポンジのショートケーキを満喫した。

コンビニのスイーツだって日々進化していてかなり美味しいものが増えている。

だけどきっとこんなにもこのショートケーキが甘くて蕩けるように美味しいのは拓海といるからだろう。