泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



すう、と息を吸って吐く。

「あの日、凄く悲しい事があった」

ポツリと話し始めた私に拓海は優しく「うん」と返事をくれて、大丈夫だと言う様に抱きしめる手に力を込めた。

抱きしめられているから拓海の表情は見えないけれど、全身で受け止めようとしてくれているのが触れた身体や聞こえる声から分かるから私は安心してこの間の出来事を話す事が出来た。


「騙されたっていうか嘘をつかれたの。私は前の事を覚えていられないからそれをいい事に嘘をつかれた」

「⋯うん」

「それが凄くショックだった。特別仲が良いわけでもなかったけど、それでも誰かに嘘をつかれたって事実に裏切られたって思っちゃって。きっとそういう事って過去にもあったんだろうなって思ったら凄く悔しくて⋯」

「⋯うん」

「私が悩んでいる事も怖くて堪らない事も、誰かに都合よく利用されるんだって考えたら全身が冷たくなった」

「⋯」

「途端に全てが怖くなって、悲しくなって、こんな自分が恥ずかしくなって、風船みたいに身体から空気が抜けていく感覚がした。力を入れて踏ん張ってないと萎んでしまう気がしたの」

「佳乃⋯」

「本当は拓海に縋りたかった。思いっきり泣いて、泣き止むまで傍にいて欲しかった」

「⋯っ」

「でも、嘘つかれて騙された私を知られたくないしこんなに弱くて情けないカッコ悪い自分を見せたくなかったの」

「⋯」

「⋯っごめんね、本当はあの日拓海が待っててくれて嬉しかった」


そう言い終えた瞬間、目の縁に溜まっていた涙が零れた。

だけどそれは私の頬を伝う事なく、抱きしめる力を強めた拓海の服に吸い込まれていく様に染み込んだ。