泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


日曜日になると私の一週間が終わりを向かえる。


「⋯⋯」

「佳乃、どうしたの?」

「⋯⋯へ?」


外が暗くなり始めた逢魔が時、窓を見てボケっとしていたお母さんが不思議そうに顔を覗き込む。


「何か気になる事でもあるの?」

「⋯どうして?」

「浮かない顔してるから」

「⋯⋯」

「昨日も笑ってたけど、ふとした瞬間に泣きそうだったよ」

「⋯」

「彼と何かあったの?」


お母さんって凄いなって思う。

勘がいいとかもあるんだろうけど、きっとそれよりも私のお母さんだからこそ分かってしまうんだろう。


「何かあったとかじゃないけど⋯」

「けど何よ?」

「⋯⋯分かんない」


喧嘩をした訳でもないけど、拓海に合わせる顔がない。会いたくないとも違うけど、会うのが怖い。

今日は日曜日。会う約束はしていないけど、何となく拓海が防波堤にいる気がする。

それは今日が日曜日だからだろうか。


「佳乃」


そんな事を思っていると真剣な表情をしたお母さんが私の名前を呼んだ。


「前に言ったでしょう。“自分が大切だと思ったものは大切にしなさい”って」

「⋯」

「大切にしなければ離れていってしまう事もあるのよ。離れてしまってからじゃ遅い時もある」

「⋯っ」

「あまり娘の恋にとやかく言う事はしたくないけど佳乃が後悔するのは嫌なの」

「お母さん⋯」

「もしも佳乃が彼を大切に想っているのなら、同じだけ想いを返しなさい」

「同じだけ、想いを返す⋯?」


拙く復唱した私にお母さんが微笑んで頷く。


「大切にしてもらったなら佳乃も同じだけ相手を大切にするの。優しくしてもらっても、守ってもらってもそう」

「っ」

「彼が大切な人なら、愛してもらった分だけ愛しなさい」

「愛してもらった分だけ愛す⋯」

「そしてそれ以上の気持ちで愛しなさい」


お母さんの言葉を聞きながら、私は拓海にとても愛されている事を思い出した。

例え思い出を忘れてしまっても、彼が私を愛しそうに見つめる事を知っている。

優しく触れる事も、一緒にいるだけで嬉しそうに楽しそうに笑う事も知っている。

誰よりも愛を込めて名前を呼んでくれる事も⋯。


覚えているではなく、知っているという事は、それは拓海が毎日途切れる事なくそうしてくれているから。

だから私は⋯⋯いつだって愛されていると思う事が出来るんだ。


「お母さん、」

「後悔しないようにね」


立ち上がった私にお母さんはそう言って笑った。

そして上着を羽織った私は急いで家を出た。