泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



「あ、今日唐揚げでしょ?」

夜、自室からリビングへとやって来た彩乃が小鼻を動かしてそう言った。


「匂いした?」

「うん。美味しそうな匂い」


相変わらず我が家では週一の頻度で唐揚げが夕食に並ぶのだけど、前はそれを嫌がっていた彩乃も今ではニコニコと「お腹空いたー」と言っている。

コンクールが終わった後の夏休み後半の彩乃は遊びまくっていて、海だプールだと毎日の様に出掛けた。

ダイエットだと言っていたものの、それは言ってしまえば言い訳の様なもので、私が好きな唐揚げを同じ様に好きだと言うのが何だか癪だったらしい。だけどわだかまりの無くなった今、私と彩乃は二人並んでお母さんの唐揚げを美味しいと食べている。


「そういえばお姉ちゃんもうそろそろ誕生日だね」

「⋯そうだっけ」

「プレゼント何がいい?」


自分の誕生日すら忘れてしまっていたけれどカレンダーを見れば確かに二週間後の10月21日に印がついていて、ケーキのシールが貼ってあった。


「プレゼントなんていいよ」

「ダメだよ、誕生日なんだから」

「でも彩乃に何か買ってもらうのはなあ⋯」


彩乃のお小遣いを私の為に使うのは勿体ない気がして気が引けるけど、彩乃はプレゼントをくれる気満々でリクエストしないといけない雰囲気を醸し出している。


「⋯⋯プレゼント、プレゼント⋯、あ、」

「なに!?」

「演奏」

「演奏?」

「彩乃の演奏が聴きたい」


何か物をもらうよりもそっちの方が嬉しいし、純粋に彩乃の演奏を聴きたかった。


「ダメ?」

「ダメじゃないけど⋯本当にそれでいいの?」

「うん。それがいい」


そう言って笑った私に彩乃は少し恥ずかしそうにはにかんだ後、「それじゃあ楽しみにしておいてね」と言った。

その柔らかい笑顔に私まで幸せな気持ちになっていると何かを思い出した彩乃が楽しそうに声を発した。


「誕生日だって事、彼氏に伝えるんだよ」

「っ、え?」


彩乃は私に付き合っている人がいる事をお母さんから聞いているという事は私も分かっていたけど、実際に彩乃がこうして拓海の事を口にするのは初めてで、口の中に入れていた唐揚げが喉に詰まりそうになって慌てて麦茶で流し込む。