泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「どうしてって聞かれても困る」

「⋯」

「理由なくっていうのも違うけど、具体的にどうしてっていうのはないよ」

「ないの⋯?」

「強いていえば佳乃が好きだからじゃない?」

「それ、答えになってないよ」


どうして好きなの?って聞いてるのに佳乃が好きだからっていうのはまるでゴールのない丸い迷路を延々と回っている様なものだ。
だけど拓海は「なってるよ」と言って微笑む。


「佳乃だから好きなんだよ」

「⋯だから、答えになってない」

「じゃあ答えはない」

「⋯」

「それ以外に言い様がないからその質問には答えられない」


両手を後ろにつき、凭れる様にして座る拓海は視線だけを私に向ける。

その表情は答えられないと言った割にとても優しくて。


「海を眺める横顔が好き。笑った顔が好き。たまに子どもみたいにはしゃぐ所が好き」

「⋯拓海?」

「凛とした立ち姿が好き。すぐ照れて赤くなる所も好き」


いきなり好きだと連呼しだした拓海に戸惑う私とそれを構う事なく言葉を続けていく拓海。二人きりの海はとても静かで拓海の声がよく届いた。


「柔らかい髪も俺の名前を呼ぶ声も好きだし、あったかい手も好き」

「⋯っ」

「家族思いな所も人の事ばっか気にしちゃう優しい所も好き」

「⋯拓海」

「泣きたい時もあるはずなのに毎日を強く乗り越えようとしてる所も好きだし俺のことを好きになってくれた所も好き」

「⋯っ」

「どうしてって言われてもそれが佳乃だからとしか本当に言い様がない」


片手を地から離した拓海がその手をそっと私の髪へと伸ばす。

緩い風に吹かれ揺れる私の髪の毛を一房耳に掛けながら、流れるようにその手を頬へと滑らせた。

それだけで私の頬は熱を持ち鼓動が速くなる。

見つめ合った瞳は逸らす事など不可能で、私は吸い寄せられる様にただ拓海の事を見つめた。