泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



「佳乃、濡れるよ」

「だいじょーぶ!足だけだから」


夏休みが明けたといっても、まだまだ海には入れる気温だ。

放課後にいつもの様に防波堤で少し話をしてから、ふと思い立って海の方へと歩き出した私に「まさか泳ぐ気?」と怪訝な顔を見せる拓海にそう言って靴下を脱ぐ。


「制服濡らすなよ」

「分かってるって!」


意外と慎重派というか心配性な拓海に返事をして、気持ちの良い海潮音を鳴らす海の中へと足を入れた。


「っ冷た!」

「もう九月だよ」

「さすがにちょっと冷たかった」


まだまだ大丈夫だと思っていたけど、想像よりも海水の温度は冷たくて。だけど足を入れるくらいなら出来る温度だ。


「見て!水しぶき!」

「佳乃って少年だったの?」


白い波を足先で蹴っ飛ばして笑う私を砂浜に立つ拓海が呆れた様に笑う。

時折高くなった波が膝下辺りまでやってきてその冷たさにビクッとなりながらも、慣れてしまえばその冷たさも気持ちがいい事には変わりなく。


「えいっ!」

「うわ、結構飛んできたんだけど」

「拓海も入れば?楽しいよ?」

「佳乃を見てるだけで充分楽しいよ」


拓海の方へと飛沫をやれば、大袈裟に手でガードを作った拓海は海に入る気はないらしい。

まあ、拓海はズボンだし波が長くなると膝下まで波が当たるから膝までズボンの裾を捲るのは少し面倒くさいか。


「じゃあ拓海はそこで見ててね。私は少し海と遊ぶから」

「うん、そーしとく」


バシャバシャと水を掬ったり蹴っ飛ばしたりする私を完全に少年視している拓海は「元気だなぁ」と呟きながら波と遊ぶ私を眺めていた。

オレンジ色に染まる夕日とそれを反射して輝く水面、波と遊ぶ私とそれを笑いながら見つめる拓海。


世界の温かさを全部ここに詰めたんじゃないかと思うくらい儚い泡沫の時間は永遠のようにも一瞬のようにも思えた。