ひゅう~っという高い音と地響きの様な重い音、そして弾ける夜の花。
花火というものはどこまでも綺麗で人の心を引きつける。
「綺麗だね⋯」
「うん」
まるで異世界の様に夏の夜空を彩る花火は鮮やかで見事で。パァッと開くその花は刹那の如く闇夜に消えていく。
それがまた儚くて風情がある。
どんどんと盛り上がりを増して打ち上げられていく花火を見上げながら、チラリと横に立つ拓海の顔を覗き見ればいつもキラキラしているその瞳はより一層輝いていて。
虹彩に映る色とりどりの光にぎゅうっと胸が締め付けられた。
打ち上がって、咲いて、夜に溶ける様に消えていく。
そんな切なく儚い花火を見ていたらとても泣きたくなった。
「⋯拓海、」
「⋯ん?」
きゅっと繋いだ手に力を込めて名前を呼んだ私に拓海が花火の轟音が鳴る中僅かに腰をかがめて耳を近づける。
その仕草も繋いだ手の温かさも浴衣姿もはしゃいで見て回った屋台も、一瞬の輝きも、全部全部、忘れたくないと強く思った。
目に映る景色も鼻腔を擽る香りも触れた温かさも鼓膜を震わす音さえも、全部どこかに閉じ込めておけたらいいのに。
それが記憶という形で残しておけたならどれだけ幸せだろう。
ドンッ、ドンッと打ち上がる花火。
赤、黄、緑、藍、金、たくさんの色が夜を彩る。
至近距離で見つめ合った二人。
拓海のまつ毛ってこんなに長かったんだって思いながらゆっくりと目を閉じる。
「佳乃、好きだよ」
誰もが皆、夜を彩る光に夢中になっていて重なった二人の姿なんて周りの人には見えていなかった。
ただ私たちだけが知っていた。
この夏、初めて触れた柔らかさを私たちだけが知っていたんだ。



