泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】




記憶がリセットされた朝、日記帳とスマートフォンにある写真フォルダを見る事が日課になり、その度に私はまだ見ぬ恋人に緊張しながら、写真に映る幸せそうな自分と男の子の笑顔にじゅわりと心が弾む八月下旬。


私は拓海と約束した夏祭りに来ていた。

予定はスマホのカレンダーにメモしておき、約束したその日のうちに念の為お母さんに伝え、浴衣も用意してもらった。

拓海と行くと伝えた私にお母さんがせっかくなんだからと買ってくれた浴衣は白い生地に赤い椿の花が咲く浴衣はシンプルながらもとても可愛くて気分が高揚する。


いつもの防波堤前に宵の口に待ち合わせ。


「お待たせ」

「⋯誰かと思った」

「⋯浴衣、来てみたの」

「うん。似合ってる、綺麗だよ」


深い紺色をした浴衣を着ている拓海はその美しい容姿も相まって普段より数倍艶っぽく見える。

だからそんな拓海に綺麗だと言われた私の顔は簡単に熱を持って、目が合わせられなくて俯いた。

そんな私の頭上には拓海が微かに笑う声が降ってきて、そのまま私の右手を攫う。

ほんのりと繋がれた手はすぐに絡められて、指の隙間からでも伝わるその温もりに妙に恥ずかしくなったけれど、だからといって手を離すなんて選択肢はなく。


私たちは手を繋いだまま、地元の夏祭り会場までを歩いた。