翌日防波堤で彩乃と仲直り出来た事を拓海に報告する。
「よかったな」
「うん!⋯拓海のおかげもあるし、ありがとう」
「俺は何もしてないよ」
拓海はそう言うけれど拓海が背中を押してくれたから私は彩乃とちゃんと向き合わなければと思ったんだ。
「でもさ、まさか彩乃が私の事をあんな風に思ってくれてたなんて全然知らなかった。なんて言うか、ほんのちょっと歩み寄るだけで凄く相手と分かり合える事ってあるんだなって思ったよ」
「気持ちを伝えるって勇気がいるけど大切な事だと思わない?」
その言葉に私は大きく頷いた。
今までと変わらないまま、ずっと彩乃への罪悪感や壁が取れない関係性のまま過ごしていくものだと思っていた。
彩乃には嫌われているんだって、そう思っていた。
だけど勇気を出して自分の気持ちを伝える事で、見える景色が180度変わる事もあるのだと知った。
罪悪感ばかりに支配されていた彩乃への感情は例えるならば重く灰色をしていた。
だけど今は柔らかく明るい色をしている。
嫌われているんだと思っていたのに彩乃は私を嫌ってなんかいなくて、それどころか私の為に吹奏楽を頑張っていた。
この先も私を支えたいと言ってくれた。
ただ、ほんの少し勇気を持って恥ずかしがらずに気持ちを言葉にするだけで世界は変わるかもしれない。
勇気を出す事も気持ちを言葉にする事もとても難しい事かもしれないけど、そこを頑張って踏み出してみれば自分を取り巻く環境は変化していく事もある。
それは家族にしても友達にしても恋人にしてもだ。
上手くいかなかったり悩んでいたり、喧嘩してしまったり分かり合えなかったり。
それは日々を過ごしていく中で避けては通れない事かもしれない。
だけど、だからこそ、少しだけ勇気を出してみる。
怖いかもしれないけど恥ずかしいかもしれないけど、素直になってみる。
そうすればきっと、向き合ってくれる人はいるはずだ。
自分を受け止めてくれる人はきっとこの広い地球の中で一人くらいはいるはずだ。