申し訳なくて。
自分の都合ばかりで今日もノコノコやって来てしまった自分がありえなくて。
謝ろうと開きかけた唇を止める様に彩乃が声を発した。
「でもさっ!」
「⋯彩乃?」
「お姉ちゃんが覚えていなくても、今日の私を見て何かを感じてくらたらそれで充分だって思うんだよね」
「⋯⋯」
「本当に、それだけで充分なの」
そう言った彩乃の表情は柔らかくて、その言葉が嘘だとは思えなかった。
「それにもしかしたら何年か後にふと今日の曲を聴いて今日の事を思い出すかもしれないでしょ?そうやって思えるだけで頑張った甲斐がある」
「彩乃⋯」
「お姉ちゃんの為に始めた部活だけど私自身も楽しかったし、私の集大成を記憶とか関係ナシにお姉ちゃんに見てもらえた事が一番嬉しいから」
「っ」
「傷付く事もあるし、記憶を失ったお姉ちゃんに悲しくなる時もある。でも、お姉ちゃんが笑ってるだけで嬉しいんだよ」
「彩乃っ⋯」
「お姉ちゃんが幸せな事が私もお母さん達も嬉しいの」
こんな事を言ってもらえる日が来るなんて想像すらしていなかった。
「私もっ、私も彩乃が笑ってくれると嬉しいよ」
そう言った私に「今日の私、どうだった?」と聞く彩乃に私は笑って「格好良かったよ」と伝えれば、彩乃は満足そうに笑った。
──────結果、彩乃の最後のコンクールは銀賞だった。
県大会まで進む事は出来なかったけれど、それを聞いた彩乃の表情はどこまでも清々しかった。