泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】




「彩乃、お疲れ様」


会場の外の片陰で、私はそう声を掛けた。

後片付けが終わり他校の演奏を聴きに客席へと来た彩乃と同じ学校の子たちの中に彩乃がいなくて、一人の子に彩乃を知らないかと問えば「部長はさっき会場の外にいました」と教えてもらい会場を出て彩乃の姿を探していれば、物陰に一人佇むその姿を見つけた。


「お疲れ様、彩乃」

「⋯お姉ちゃん」

「ここ、暑くない?」

「陰になってるから平気」


彩乃の傍に一歩近付けば私も陰に入る事が出来て、八月の暑い日差しも少し和らいだ。


「⋯今日来たこと怒ってる?」

「⋯」

「ごめんね、勝手に来て。だけど、どうしても見たかったの」


少し離れた所にある大きな木の葉が風に揺れる。

話をするなら今しかないと思った。


「彩乃が一生懸命頑張った部活を応援したかった。彩乃が奏でる音を聴いてみたかった」

「⋯忘れちゃうのに?」


その声は意地悪だとか棘があるとか、そういうのではなくて、どこか自嘲的な声色に彩乃の辛さが現れていた。


「⋯⋯確かに、忘れちゃうよ。今日見た彩乃の姿も聴いた音色も、来週には私は忘れちゃう。でも、見たかったの、聴きたかったの」

「⋯っ」

「忘れちゃうかもしれないけど、心に、焼き付けたかった」

「っ心に?」

「自分勝手かもしれないけど、覚えていられなくても見たかったの。三年間の彩乃の努力の結晶を見て、聴いて、応援したかった」


忘れてしまうくせにどれだけ身勝手なんだろう。

だけど、今、繕った言葉を言ってもそれは何の意味もないと思った。


大切な事だからこそ、大切な人にこそ、素直な気持ちを話さなければいけない。

大切な人にだからこそ、繕った言葉は通用しないんだ。