泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



彩乃と話をしようとは思った。

だけど向き合うという行為はとても勇気が必要で、直前になって怖気付いてしまう私はなかなか彩乃と話がしたいと本人に言う事が出来ないまま、彩乃のコンクール前日を迎えた。


ちなみに私と拓海は順調で、というよりもあまり前と大きく変わった事がなく過ごしていた。

日記帳には拓海と付き合う事になった事だけを書き記して、朝起きた時に自分には付き合っている人がいるのだという事が分かる様にしておいた。

さすがにそれを書かないと拓海はこの先私とどう接したらいいのか分からなくなってしまうだらうし、なにより想いが通じ合ったという事実だけは有耶無耶にしたくはなかった。


誰かに恋をするのも誰かを好きになるのも初めてな私は、恋をした自分がどうなってしまうのか分からなかったけれど相変わらず拓海と過ごす時間は楽しいし、傍にいて欲しいとも思う。

記憶がなくなってしまえば拓海を好きだという気持ちもなくなってしまうのではないか⋯と想いが通じた日の夜に不安になったけれど、どうやらそれは杞憂だった様で。


食の好みや海が好きだという事が変わらない様に、拓海を好きだという気持ちは記憶が失われても変わる事はなかった。

もちろん人の気持ちだから変わる事だってあるのかもしれないけど、それは私が拓海を嫌いにならない限り変わらない気がした。


だって、記憶を失っても私は拓海に恋をしていた。きっと、記憶とか関係なく心が拓海に惹かれているからだと思う。頭は拓海と過した時間を覚えていなくても身体や心はちゃんと覚えているからだと思う。

昨日だって今日だって私は拓海の傍にいたくて、好きだと心が叫んでいる。

だからきっと明日もそうなのだと思う。