泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


防波堤からの帰り道、分かれ道に差し掛かった所で拓海が私の名前を呼んだ。


「俺が言う事じゃないのかもしれないけどさ⋯」

「⋯うん?」

「妹さんとちゃんと話した方がいいと思う」

「⋯っ」

「きっと二人はすれ違ってるだけだと思うから」

「すれ違ってる⋯?」

「佳乃は妹さんのこと好きでしょ?」

「うん。好きだよ」


例え記憶をなくしてしまったとしても、彩乃が私の妹だという事実は変わらない。

理屈とかではない精神的な部分で私は彩乃を大切だと思っている。

それは家族だから妹だからっていう部分もあるのかもしれないけど、彩乃だから私はそう思うのだろう。

こんな私を受け入れて「お姉ちゃん」と呼んでくれる彩乃だから私は大好きなのだろう。


「自分のことを忘れても大切に思ってくれる姉を心底嫌う妹はいないはずだよ」

「⋯」

「佳乃が忘れてても妹さんには佳乃と過ごした良い思い出も悪い思い出もどちらもあるんだから。だからきっと大丈夫」

「⋯仲直りしろって事?」

「そういう事」


どうやら拓海は私の背中を押してくれようとしているらしい。


「⋯ありがとう、拓海」


仲直りを出来るかどうかは分からないけど、お母さんも拓海もちゃんと話した方がいいと言うのだからそうなのだろう。

仲直り以前に心を通わせるという事がまず第一なんだ。


「拓海のおかげで勇気が出た」

「⋯じゃあ、また明日な」

「うん。また明日」

「バイバイ」

「バイバイ!」


数歩進んで振り返ればそこにはまだ拓海が立っていて手を振る。
そんな私に笑って手を振り返してくれる拓海に今度こそ「またね」と言って背を向ける。

家路へと帰っていく私の後ろ姿をいつも拓海が姿が見えなくなるまで見つめている事を私は知らなかった。