泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


そしてゆっくりと身体を離した拓海慈しむ表情を私へ向ける。


「佳乃」

「⋯なに?」

「佳乃は俺と付き合ってくれる?」

「⋯」

「付き合ってくれるなら、頷いて」


そう言われすぐに頷く事が出来ないのは、やっぱり私には記憶を失ってしまうというどうしようも出来ない問題があるからで。

さっきは勢いに任せて好きだと言ってしまったけど、一週間ごとに記憶を失ってしまう私が恋をするなんてやっぱり無理だ。

誰かと付き合うなんて考えられない。


「っ私、」

「佳乃」


そう考えて「やっぱり⋯」と言おうとした私を察してか、拓海は私の言葉を遮った。


「さっきは半々だなんて言ったけど今はもう、何度だって佳乃に好きになってもらう自信があるよ」

「っ」

「何度だって好きにさせる」

「⋯でもっ、」

「佳乃が忘れてしまうなら何枚だって写真を撮る」

「⋯っ」

「過ごした時間は夢なんかじゃないって残しておく。見るのが苦しい時は見なくていいし、見たくなったらいつだって見せてあげる」

「⋯っ」

「佳乃が忘れてしまう事も俺が覚えてるから⋯だから、」


「傍にいてよ」と力なく囁いた拓海に私はどうしようもなく泣きたくなった。

私が忘れてしまう事を覚えていてくれると言ってくれた拓海を出来る事ならずっとずっと覚えておきたいと思った。


「⋯困らせちゃうかもしれない」

「いいよ。佳乃にされる事なら何だって許せる」

「辛い思いも、苦しい思いもさせるかもよっ?」

「それでも傍にいたいんだから何だって受け入れる」

「っ後悔するかもしれないっ」

「そんなの絶対ないから安心してよ」

「⋯」


どうして拓海はこんなにも私に優しくしてくれるんだろうって不思議で、でもそれが好きだからという理由なら全部納得出来る気がした。


「本当に、いいの⋯?」

「うん、いいよ」

「頷いてもいいのっ⋯?」


太陽が水平線の向こう側に沈んでいく瞬間、私は世界で一番幸せだとすら思った。

こんな私を好きだと言ってくれる人に出会えた事は、記憶を失ってしまう事をチャラにしてしまうくらい幸運なんじゃないかって本気で思ったんだ。