泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「たく、み⋯」

「うん?」

「好き、ってなに?」

それはもちろん、好きという言葉の意味が分からないわけではなくて。いや、そういう意味なんだけど辞書の様に説明して欲しいわけではない。


「そのままの意味だよ」

「っだから、そのままの意味が分からないんだよ⋯」


色々と聞きたい事はあるものの、聞きたい事の核になっているその“好き”を理解しない事には何も始まらず⋯。


「好きっていうのは、その、友情的な事⋯?それとも、恋愛的な⋯?」


抱きしめられたままこんな事を聞くのは相当勇気が必要だったけど、今なお強く私を抱きしめている拓海から抜け出す事は不可能で、私もまた、まだその温もりから離れたくなかった。


「佳乃に初めて会った時さ、」


戸惑いながら拓海の言葉を待っている私にまた拓海が笑って、落ち着いた声で話を始める。


「一目惚れだって言ったんだよね」

「⋯え?」

「好きだって言って、でも佳乃からしたらいきなりそんな事言われてもってなるじゃん。だからまずは友達からでって事になって⋯、まあ色々端折ってるけど、とりあえず友達になろうってなったわけ」

「うん⋯」

「それで友達になって記憶をなくした佳乃と会って過ごしてたんだけど、佳乃は全然告白の事を口にしないし気にしてる素振りもない。気まずい態度も見せないからああ、あれは佳乃にとって忘れたい事だったのかなって思った」

「ど、どうして⋯?」

「だって友達になった事はどこかに書いておいてくれたりして覚えてたのかもしれないけど、告白された事実を残しておかなかったって事はなかった事にしたいのかなって」

「⋯」

「だからこの気持ちは俺の中だけに留めておこうって思ってた。ま、佳乃が俺のことを好きだって言ったらその時は留めておくも何もないんだけどさ」


そう言った彼に「自信あったの?」と聞けば「半々かな」と喉を鳴らしてクスクスと笑った拓海の腕の中で私はほんのりと姿を現した自分の気持ちに気付く。