「佳乃、」
静かに名前を呼ぶ拓海の声は困っている様にも寂しそうにも聞こえて。
彼もまた、私が傷付けてしまう一人なのだと痛感する。
「拓海だって、本当は嫌でしょ?」
「⋯嫌?」
「私が何も覚えてないの辛いでしょ?」
「⋯」
「心が疲れない?」
「⋯」
無言は肯定なのだろうか。
寂しそうにぎこちない笑みを作る拓海は私と友達になった事を後悔してるんだろうか。
「私だって日記をつけてみたり、忘れない様に努力しようとしたりしたんだよ。でも日記を書く度に怖かった。忘れてしまうんだと突きつけられているみたいで恐ろしかった。
自分で思い出してノートにしたためた事を朝起きて何も覚えていない事が辛かった。だから、書けないの、もう。日記をつけていた時の恐怖が今でも克服出来なくて私はその日を振り返れない」
「⋯」
「だけど、私が怖い何倍も周りは怖いんだよね⋯?苦しくて辛いんでしょ?」
自分の弱さが周りを苦しめる。
「それならいっそ、消えちゃえばいい」
「⋯」
「私なんて⋯、私なんてっ⋯」
“消えればいいのに”
口から出かけたその言葉は、空気を震わす事なく喉へと返ってくる。
出そうとした言葉。
発しようとした声。
それは、思いっきり私を抱きしめた拓海によって邪魔された。
「⋯⋯そんな事言うなよ」
「⋯っ」
「頼むからそんな事言わないでくれよ⋯」
ぎゅうっと痛い程に私を強く強く抱きしめる拓海の泣きそうな声がすぐ近くで聞こえる。
その声は震えていて、私はまた、涙を零した。



