泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


その後彩乃は自分の部屋に篭ってしまい、私は中途半端なままフライパンに残っていた焼きそばをゴミ箱へ捨てた。

濃厚なソースの匂いに吐きそうだった。


床に転がったグシャグシャの一枚の紙を拾う。


記憶がリセットされた朝、彩乃を見て誰だと聞く自分が嫌だった。

妹だと言われても名前すら覚えていない自分が情けなかった。

私とお母さんのその会話を聞く度に悲しそうにする彩乃を見たくなかった。


だから過去の私は彩乃に会う前に妹だと分かる様に、名前を呼べる様に絶対に目にする場所に紙を貼ったんだと思う。

それを見る度に覚えていられない自分が嫌になったけれど、貼ったおかげて彩乃に悲しい思いをさせる事はなくなったんだって、勘違いをしてた。


ドアに自分の名前を書かれているのを知ったらどう思うかなんて少し考えれば分かる事だったのに。

貴方の事は忘れてしまいますと、突きつけられている様に思ってしまう。

それがどれだけ寂しく辛いものなのか、きっと彩乃は誰よりも知っている。



その夜、様子のおかしい私たちに両親は心配そうな表情をしていたけれど、何かを言う事はなかった。

私と彩乃が喧嘩するなんて原因は私にしかない事を二人とも分かっているから、それが記憶に関しての事だと分かっているからこそ、両親も何も言えなかったんだ。

私の気持ちも彩乃の気持ちも分かるから、どちらかを責める事など出来ないのだ。