「お姉ちゃん、いつからか人と関わる事を辞めたじゃん。友達も作りたくないって、お母さんに言ってたし」
「⋯うん。今も誰かと関わる事は怖いし友達だって作らない方がいいんじゃないかって思う」
「それならっ!⋯どうして?」
ゴールデンタイムのバラエティ番組はこの空気にBGMとして相応しくなく、明るい出演者の声が少し耳障りだった。
だけど反対に静まり返った空間で彩乃と話をするのもそれはそれで緊張する気がして、私はそっとテレビのリモコンを手にしてその音量を数回下げる。
「彼なら友達になってくれるって思ったの」
「⋯」
「私は彼と交わした会話を覚えていられないけど、その時の私が友達になると決めたなら、これからも彼と関わりたいと思ったなら、きっと彼にはそう思わせるだけの何かがあったんだと思う」
それは言葉かもしれないし態度かもしれないし、表情かもしれないし心地かもしれない。
初めて会った日の事を覚えていない私にはどうして自分が彼と友達になろうと思ったのか分からない。だけど、友達になると決めた日も、毎週やってくる月曜日にも、今日も、私は彼を信じた。
信じたから友達になって、会いたくなって、笑えるんだ。
「⋯⋯その人はお姉ちゃんの事を傷付けない?」
「⋯うん、一緒にいると楽しいよ」
「⋯そうなんだ」
彩乃は大切な事を言葉に出さない。
だけど今の一言で私が思った事が自惚れなんかじゃないと分かった。
「彩乃、ありがとう」
「ありがとうって何が⋯?」
「心配、してくれてるんでしょ?ありがとう」
「⋯っ」
「ありがとう」
驚いた様に唇を薄く開きながら、気恥しそうに眉を寄せて視線を逸らした彩乃はずっとずっと私よりも大人なのかもしれない。
嫌な思いもしているはずなのに、こうして私を心配してくれる。
私に傷付けられた事もたくさんあるはずなのに。
ありがとうという言葉じゃ伝えきれない程、彩乃には感謝をしているしそれと同じくらいごめんねって謝りたい。
優しくて強い妹に私はあとどれ程辛い思いをさせてしまうのだろう?と考えたら心が重くなって、逃げ出したくなった。



