泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】


「それなら、これからもいっぱい写真を撮ろう」

「これからも⋯?」

「ずっと残る様に、それを見て佳乃が俺に会いに来てくれる様にたくさん撮ろう」

「⋯拓海は、今日会っても、それでもまた私と会ってくれるの?」


楽しかった記憶も全部忘れてしまう私を彼はどこまで受け入れてくれるのだろう。


「会いたいよ。それでずっと佳乃の傍にいたい」

「っ」

「佳乃が忘れてしまう度に会いに行って、また俺を覚えてもらう」

「拓海⋯」

「一週間ごとかもしれないけどさ、それでもずっと佳乃に忘れられるよりずっといいよ」


そう言って海から私の方へと視線を移した彼の顔はほんのりと悲しさが滲んでいて。

強がりでもあり本心でもあるその言葉を発するまでに彼がどれほど悩み、諦め、悲しんだのか私には想像すらつかなかった。

悲しくないはずがなくて、悩まないはずがない。

記憶を失う私といるというのは根気も体力も必要で、それでも私の友達でいてくれるという彼に私は一体何が出来るだろうと考えた。

考えたけど答えは出なくて、そっと伸ばした手を彼の手に重ねる。


「拓海はどうして私といてくれるの?」

「⋯どうして?か」

「うん。だって他の人だったらきっと関わりたくないと思うよ。それなのにどうして⋯」


純粋な疑問だった。

だけどそれに答える事なく拓海は重なった手に力を込めて握った。


「佳乃」

「⋯」

「佳乃」

「⋯」

「佳乃」


私がここにいるのだと確かめる様に名前を呼び手を握る拓海はその後何も言うことなくただただ海を眺めていた。