多分、伊織くんと同じクラスの人。

「葦名さんも、転入生目当て?」
「いえ、あの……」
「どうせ、囲まれて話せない状態だから、俺とお喋りしよーよ」

名前を知らない男の子は、私の両手を取ってぎゅっと握った。

男性恐怖症じゃないのに、何故か友好的に話しかけてくれた男の子が怖いと感じた。

「あの。離して……」

恐る恐るお願いしてみるけど、握られた手は離そうとはしてくれない。

「一緒にどこか遊びに行かない?」

どうして面識のない私を誘ったんだろう。

大して面白い話が出来るわけじゃないから、私といてもつまらないのに。

「用事があるので……」
「じゃあ、ご飯食べようよ」

引き下がらない男の子に、どうしようと戸惑っていた時。

「……絢芽に触ってんじゃねーよ」

突然、頭上から低い声が聞こえてきた。

振り向いて声のする方へ目線を向けた瞬間、私は驚きのあまり目をみはってしまった。

私のすぐ後ろに、無表情で男の子を見据える伊織くんがいたから……。