「あれ、まだいたんだ」

 
 私がうつ伏せて、どれくらい時間が経ったのだろうか。


 教室の後ろの出入り口の方から声が聞こえた。


 ゆっくりと顔を上げると、そこには同じクラスの男子がいた。


「なぁ、もう結構遅いぞ?帰らなくていいのかよ」


 男子は私の席の方に来ると、私の横の席に座った。


 …なんで隣に座るの。


 私はそのちょっとした怒りも含んだ声で、


「…いいの、別に」


 と言った。


 特にこいつのことが気に入らないというわけじゃない。


 でも、なんかこいつといると、いつもの私じゃない気がする。


 私がいつも仮面を被っていることを、こいつはわかってる気がする。


「別にって。…お前まさか、傘忘れたのか?」


「そうだよ。…それが何?」


 こんな感じで突き放したいわけじゃないのに。


 私の言葉は、勝手にぶっきらぼうになる。


「いや、俺と一緒だなーって思ってさ。俺も傘忘れたから」