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第二セット開始直前、赤尾が熊川に耳打ちした。
「熊川出来るか?」
「いいよ。やっちゃう?」
そう言った二人が口角を上げた。
第二セットは狼栄からの攻撃だ。尾形がいつもの無表情のままボールを高く上げ、ジャンプサーブ。それを鳳凰の八屋がレシーブで上に上げた。ボールは八屋から高田、遠野へとつながり、狼栄のコートに帰ってくる。そしてそれを、熊川が綺麗に赤尾へと上げた。そのボールを赤尾がトスを上げる姿勢のままジャンプし、ネットギリギリを狙いスパイクを打ち込んだ。二人のツーアタックに反応出来なかった鳳凰のコートにボールが転がって行く。バレーボールは反応が一瞬遅れるだけで不利になるスポーツだ。一瞬の遅れが命取りとなる。そして、こちらにツーアタックという武器があると知った鳳凰のブロックに、迷いを与えることが出来たはず。そこからは赤尾の独壇場だった。赤尾のクイックの連続、AクイックBクイックCクイックと相手チームあざ笑うようにクイックが続く。そして最後に赤尾のツーアタックが決まった。
「ウッシャーー!!」
赤尾が叫んだ。
第二セット20-25でこのセットは狼栄が取った。
中継の河野も大きな声を出す。
「第二セットを取ったのは狼栄だーー!第二セット取り返しました。いやー姫川さん面白くなってきましたね」
「はい。次はどちらのチームが第三セットを取るのか、全く分かりませんね」
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第三セットは、第二セットを狼栄に振り回された鳳凰からの攻撃で始まる。
「俺達鳳凰を舐めるなよ」
そう言った豪のジャンプサーブが炸裂する。
「ズドンッ」
今日一番の早さと威力のジャンプサーブが狼栄のコートに沈み、大きく跳ねると二階の観客席目掛けて飛んでいった。そのものすごい威力に観客席の女子から悲鳴が上がる。狼栄の選手達は動く事が出来ずに固唾を呑んだ。
マジか……大地と互角……いや、それ以上かも……。
そう思いつつも、頭を左右に振って、気持ちを切り替える。
大丈夫だ。次は取る。
皆の気持ちは一緒だった。
昨年、大地達狼栄は準決勝で鳳凰に負けベスト4で敗退、鳳凰学園は勝ち進み優勝した。今年こそ鳳凰に勝って優勝したいと願っていた。
今年こそ、俺達が頂点に立つ!
狼栄の選手達の顔が引き締まった。
豪の二回目のジャンプサーブが飛んできた。しかしそれはエンドラインを超えていった。
転がるボールを見つめ、豪が「チッ」と舌打ちを打つ。
ここで点差を開いておきたかった豪が、悔しそうに顔を歪めた。
ジャンプサーブは攻撃力が高い反面コントロールがしにくいという欠点がある。あれだけの威力のジャンプサーブだ。コントロールは難しいだろう。大地も豪と互角のジャンプサーブを打つが、いつもコントロールに悩んでいた。
今は豪のコントロールの甘さに救われた。
第三セット、点差が開かないまま試合が進んでいく。
鳳凰と狼栄、交互に得点を重ねていき、あっという間に第三セットが終わりを迎える。
第三セットを取ったのは鳳凰だった。また豪の雄叫びのような声で会場が沸く。
第四セット、狼栄は追い詰められていた。ここで負けても全国二位だ。誇れる結果だろう……誰もが良くやったと褒めてくれる事は分かってる。全国二位で良くやった……そんな言葉が欲しいわけでは無い。負ければ敗者だ。敗者なのだ。負けたくない。バレーボールをやっている人間なら春高の頂点に……全国一位になりたいと誰でも願うことだろう。ここで負けたくない。狼栄の選手達が両手に力を込め握り絞めた。
第4セット鳳凰と1点差でなんとか試合が進んでいく。
大地がスパイクを決めれば、豪もスパイクを決めてくる。
レシーブ、トス、スパイク両者が一度ずつボールに触れるだけで、点が相手に入る状態。そのせいで、あっという間に第四セットが終わってしまう。
あまりにも早い展開に体育館が騒然とする。
そして第四セットを取ったのは狼栄だった。なんとか先行していた狼栄が第四セットを制したが、次はどうなるのか分からない。
その状況に莉愛は焦っていた。
その頃、中継の河野が呆気に取られながら、必死に状況を説明していた。
「なんて早い展開なのか。第三セットが始まって30分経たずに25-23で鳳凰が取り、第四セットもまた30分経たずに22-25で狼栄が取りました。残すは第五セットのみ!」
「これはちょっと早すぎる展開ですね。コーチ陣がこれからどんな指示を出すのか、見物ですね」
「なるほど。ではベンチの様子をのぞいてみましょう」
鳳凰のベンチでは汗だくの選手達が水分補給をしながら、コーチの話に耳を傾けていた。
「このままで良い。この早いスピードのまま攻撃し続けろ。竹田まだ行けるな?」
「うっす!まだまだいけるっすよ」
豪のその言葉にコーチが嬉しそうに頷き、選手達に声を掛けた。
「そうか、相手に呑まれるな。この勢いのまま行ってこい」
「「「うっす!」」」
狼栄のベンチでは莉愛が平静を保ちつつも焦っていた。
早い……早すぎる。
早いすぎるこの展開に、皆をどう落ち着かせるか悩んでいた。
莉愛の隣で、金井も顎に手を置き焦りを見せていた。
「お前達どうしたんだ。ボールを良く見ろ。第四セットを取れたから良いものの、向こうに取られても仕方の無い試合内容だったぞ。焦るな少し頭を冷やせ」
選手達はスクイズボトルのを手に、水を胃に流し込んだ。そんな選手達を見つめ莉愛も皆に声を掛ける。
「焦りは禁物です。落ち着いて下さい。これが最終セット……これで勝者が決まる。勝利は目の前です」
「「「シャーー!!」」」


