排球の女王様~全てを私に捧げなさい! 第二章


 *

 第二セット開始直前、赤尾が熊川に耳打ちした。

「熊川出来るか?」

「いいよ。やっちゃう?」

 そう言った二人が口角を上げた。

 第二セットは狼栄からの攻撃だ。尾形がいつもの無表情のままボールを高く上げ、ジャンプサーブ。それを鳳凰の八屋がレシーブで上に上げた。ボールは八屋から高田、遠野へとつながり、狼栄のコートに帰ってくる。そしてそれを、熊川が綺麗に赤尾へと上げた。そのボールを赤尾がトスを上げる姿勢のままジャンプし、ネットギリギリを狙いスパイクを打ち込んだ。二人のツーアタックに反応出来なかった鳳凰のコートにボールが転がって行く。バレーボールは反応が一瞬遅れるだけで不利になるスポーツだ。一瞬の遅れが命取りとなる。そして、こちらにツーアタックという武器があると知った鳳凰のブロックに、迷いを与えることが出来たはず。そこからは赤尾の独壇場だった。赤尾のクイックの連続、AクイックBクイックCクイックと相手チームあざ笑うようにクイックが続く。そして最後に赤尾のツーアタックが決まった。

「ウッシャーー!!」

 赤尾が叫んだ。

 第二セット20-25でこのセットは狼栄が取った。

 中継の河野も大きな声を出す。

「第二セットを取ったのは狼栄だーー!第二セット取り返しました。いやー姫川さん面白くなってきましたね」

「はい。次はどちらのチームが第三セットを取るのか、全く分かりませんね」


 *

 第三セットは、第二セットを狼栄に振り回された鳳凰からの攻撃で始まる。

「俺達鳳凰を舐めるなよ」

 そう言った豪のジャンプサーブが炸裂する。

「ズドンッ」

 今日一番の早さと威力のジャンプサーブが狼栄のコートに沈み、大きく跳ねると二階の観客席目掛けて飛んでいった。そのものすごい威力に観客席の女子から悲鳴が上がる。狼栄の選手達は動く事が出来ずに固唾を呑んだ。

 マジか……大地と互角……いや、それ以上かも……。

 そう思いつつも、頭を左右に振って、気持ちを切り替える。

 大丈夫だ。次は取る。

 皆の気持ちは一緒だった。

 昨年、大地達狼栄は準決勝で鳳凰に負けベスト4で敗退、鳳凰学園は勝ち進み優勝した。今年こそ鳳凰に勝って優勝したいと願っていた。

 今年こそ、俺達が頂点に立つ!

 狼栄の選手達の顔が引き締まった。

 豪の二回目のジャンプサーブが飛んできた。しかしそれはエンドラインを超えていった。

 転がるボールを見つめ、豪が「チッ」と舌打ちを打つ。

 ここで点差を開いておきたかった豪が、悔しそうに顔を歪めた。

 ジャンプサーブは攻撃力が高い反面コントロールがしにくいという欠点がある。あれだけの威力のジャンプサーブだ。コントロールは難しいだろう。大地も豪と互角のジャンプサーブを打つが、いつもコントロールに悩んでいた。

 今は豪のコントロールの甘さに救われた。 

 第三セット、点差が開かないまま試合が進んでいく。

 鳳凰と狼栄、交互に得点を重ねていき、あっという間に第三セットが終わりを迎える。

 第三セットを取ったのは鳳凰だった。また豪の雄叫びのような声で会場が沸く。

 

 第四セット、狼栄は追い詰められていた。ここで負けても全国二位だ。誇れる結果だろう……誰もが良くやったと褒めてくれる事は分かってる。全国二位で良くやった……そんな言葉が欲しいわけでは無い。負ければ敗者だ。敗者なのだ。負けたくない。バレーボールをやっている人間なら春高の頂点に……全国一位になりたいと誰でも願うことだろう。ここで負けたくない。狼栄の選手達が両手に力を込め握り絞めた。

 第4セット鳳凰と1点差でなんとか試合が進んでいく。

 大地がスパイクを決めれば、豪もスパイクを決めてくる。

 レシーブ、トス、スパイク両者が一度ずつボールに触れるだけで、点が相手に入る状態。そのせいで、あっという間に第四セットが終わってしまう。

 あまりにも早い展開に体育館が騒然とする。

 そして第四セットを取ったのは狼栄だった。なんとか先行していた狼栄が第四セットを制したが、次はどうなるのか分からない。

 その状況に莉愛は焦っていた。

 その頃、中継の河野が呆気に取られながら、必死に状況を説明していた。

「なんて早い展開なのか。第三セットが始まって30分経たずに25-23で鳳凰が取り、第四セットもまた30分経たずに22-25で狼栄が取りました。残すは第五セットのみ!」

「これはちょっと早すぎる展開ですね。コーチ陣がこれからどんな指示を出すのか、見物ですね」

「なるほど。ではベンチの様子をのぞいてみましょう」


 鳳凰のベンチでは汗だくの選手達が水分補給をしながら、コーチの話に耳を傾けていた。

「このままで良い。この早いスピードのまま攻撃し続けろ。竹田まだ行けるな?」

「うっす!まだまだいけるっすよ」

 豪のその言葉にコーチが嬉しそうに頷き、選手達に声を掛けた。

「そうか、相手に呑まれるな。この勢いのまま行ってこい」

「「「うっす!」」」


 
 狼栄のベンチでは莉愛が平静を保ちつつも焦っていた。

 早い……早すぎる。

 早いすぎるこの展開に、皆をどう落ち着かせるか悩んでいた。

 莉愛の隣で、金井も顎に手を置き焦りを見せていた。

「お前達どうしたんだ。ボールを良く見ろ。第四セットを取れたから良いものの、向こうに取られても仕方の無い試合内容だったぞ。焦るな少し頭を冷やせ」

 選手達はスクイズボトルのを手に、水を胃に流し込んだ。そんな選手達を見つめ莉愛も皆に声を掛ける。

「焦りは禁物です。落ち着いて下さい。これが最終セット……これで勝者が決まる。勝利は目の前です」

「「「シャーー!!」」」