排球の女王様~全てを私に捧げなさい! 第二章



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 東京体育館にアナウンスが響き渡った。

「全日本バレー高等学校選手権大会決勝戦を始めたいと思います。始めに両校のメンバー紹介です。前年度優勝校、山形県鳳凰学園、1番キャプテン高田浩二、3番島野達樹、4番竹田豪、7番八屋颯太、11番遠野修也、13番野田浩介。対するは前年度ベスト4、狼栄大学高等学校、1番キャプテン赤尾正隆、4番大崎大地、9番安齋学、11番大澤和彦、13番尾形壮、15番熊川貴志」

 本日のスタンディングメンバーの名前が呼ばれ、会場にいる人々に挨拶をしながらコートに並んで行く。相手チームと挨拶を交わすとコーチと話をするためベンチに戻ってきた。

「泣いても笑っても、これが最後の試合だ。全力でいけ」

「「「うっす!!」」」

 金井コーチの話が終わると皆が莉愛に視線を向けてきた。

 莉愛はジャージを脱ぎマントのように肩に掛け、腕を組むと顎をクイッと上げ妖艶に笑った。

「決勝戦、勝利はもうすぐ目の前です。さあ、跪きなさい。そして私に勝利を捧げなさい」

 莉愛の前に選手達が膝を付き、胸に手をあて頭を垂れた。

「「「仰せの通り」」」
 
 そして始まった決勝戦第一セット。

 狼栄と鳳凰、大地と豪によるオポジットスーパーエース対決が始まった。


 そして東京体育館の中継席より、最終戦の始まりと共に中継が始まった。

「皆さんお待たせいたしました。今年度、全日本バレー高等学校選手権大会決勝戦が始まりました。実況は私、河野隆史(こうのたかし)と解説者として来て頂いたのは、日本代表の姫川翔さんです」

「皆さんこんにちは、姫川翔です。よろしくお願いします」

「今年度も熱い戦いが繰り広げられそうですね?姫川さん」

「そうですね。今年度は見応えがあると思いますよ。狼栄の大崎大地と鳳凰の竹田豪二人のオボジットスーパーエースによるパワー対決ですね。どちらが真のスーパーエースなのかが決まりますね」

「なるほど、真のスーパーエースですか。そして、東京体育館を賑わせているのは女王の存在ですね」

「そうですね。莉愛の存在は目立ちますね」

「女王姫川莉愛さんは姫川選手の妹さんでしたね。ものすごいカリスマ性と存在感ですね。何やら狼栄の大崎大地選手と鳳凰の竹田豪選手が女王を取り合っているとか」

「そうなんですよ。昨日いろいろあったらしいですよ」

「そこも気になる所なんですが、そろそろ試合が始まる模様です。第一セット、サービス権を得たのは鳳凰の様です。11番遠野修也のサーブから始まります。今大会遠野はサービスエースをかなりの数を決めています。このサーブも決めたい」

 そして最初に得点を決めたのは、鳳凰学園遠野のサービスエースだった。

「サービスエース!」

 中継の河野が大きな声を上げた。

 もう一度、遠野がボールを床に突くと、ジャンプサーブが狼栄コート、ラインギルギリのサーブが飛んできた。それを熊川がレシーブで上げるが、ボールは上には上がらず、後方に飛んでいってしまった。それを安齋と大澤が追いかけ、安齋の手がボールに触れた。なんとか戻ってきたボールを赤尾が鳳凰コートに戻すが、それは鳳凰学園のチャンスボールとなってしまう。危なげなく上がったボールに合わせた豪がスパイクを叩き付けてきた。

「ドンッ」

 豪の大きな体躯から繰り出されたスパイクが決まる。そこから続けざまに得点され5-0となった。豪がどや顔で雄叫びを上げた。

「シャーー!」

 スパイクが決まるたびに豪の大きな雄叫びが体育館に響き渡る。すると体育館の歓声も誇張するように上がる。完全に体育館の人々を味方に付け、煽るように声を上げる豪。豪は自分の容姿を気にしている様子だったが、彼には人を魅了する何かがあるようだ。皆が興奮したように豪の行動を目視し、目を輝かせている。

 それでも、狼栄だって負けていない。

 一人一人の能力は、鳳凰と狼栄ともに五分五分だ。後はチームが何処まで粘れるのか、それから攻撃力、これは大地に掛かっている。

 大地ここからだよ。

 しかし、大地はこの東京体育館の様子や、豪の雄叫びに怒りを露わにしている。こんな大地は珍しい。

 ダメだよ大地、流されないで、これでは相手の思うつぼだ。豪がそこまで考えているとは思えないが……そう思い鳳凰のコートに視線を向けると、1番セッターでキャプテンの高田が口角を上げていた。全てはこの人の策か、体育館の人々を煽り拍手を求めている。

 どうやら高田は良い性格をしているようだ。良い意味では無く……。

 まだ試合は始まったばかり……そう思っていても、点差は開くばかり。鳳凰は観客を味方に付け、調子を上げていく。

 みんな、頑張って。


「ピピーー!!」
 
 第一セットを先に取ったのは鳳凰だった。

 決勝は三セット先取した方が勝つ。

 まだ一セット取られただけ、今度は取り返す。

 選手達がベンチに帰って来るが、みんな酷い顔をしている。金井コーチはまだここからだと思っているのか焦っている様子は無い。

「大丈夫だ。まだ一セット取られただけだろう。次のセットはうちが取る。竹田のスパイクには気をつけろ。ボールをよく見て動け、いいな」

「「「うっす!!」」」

 金井コーチの話しが終わると、酷い顔をしたみんなが莉愛に視線を向けた。

「みんな酷い顔をしているわね」

 莉愛はクイッと顎を上げいつもの様に笑った。

「ふっ……ねえ、みんな楽しんでる?私は最高に楽しいよ。試合は始まったばかり、楽しんだ者勝ちだよ。この空気に飲まれないで、最高の試合を私に見せて。さあ、行きなさい。楽しいバレーボールの時間だよ」

「「「うっす!!」」」

「シャーー!ここからだ」

「楽しんでいくぞ」

 赤尾と大地が順に選手に声を掛けた。

 そして大地が莉愛に拳を向けた。

 ああ、大地はもう大丈夫だ。

 莉愛は大地の顔を確認してそう思った。