スキナダケ

イチの服を全部脱がした。
イチは、ハナの下半身までは脱がさなかった。

そのまま、ハナ達は抱きしめ合った。

イチの胸の辺りに耳をつけたら心臓の音がした。
トク、トク、トクって、小さく刻んでいるのが分かる。

イチがハナの髪を撫でた。

「これからもこうやって生きていくの?」

「ん?」

「これからも、この姿で」

「…これが、僕だから」

「そうだね。これがハナちゃんだもんね」

胸元から耳を離して、イチの目を見た。
口元だけが笑ってる。

悲しみも後悔も怒りも感じない表情。
生に執着を失くした人間は、こんなに穏やかになれるんだ。

「本当の名前を教えて」

「名前?」

「ハナちゃんの、本当の名前。いいでしょ。冥土の土産ってやつ。私の人生最期の人なんだから、それくらい」

「…かぐら」

「なんでハナちゃん、なの?」

「中華の華に、楽しいで華楽だから」

イチは、そっかって言って微笑んだ。
本当の名前を教えたことを、後悔はしなかった。

イチの本名を教えてくれた。
だけどハナはもう、憶えていない。