ママを殺した日はまだ夏だったから、山の景色も随分変わっていた。

木々はまだ全然紅葉はしていないけれど、緑が薄くなって、柔らかそうな緑だった葉が黄色っぽくカサカサとした葉に変わりつつある。

木々から葉が落ちていくと、木漏れ日が減って光が少なくなる。

キラキラとちょっと幻想的なあの景色が好きだった。

バンを停めて、男性達が降りたあと、一人の男性が助手席のドアを開けて、お父さんが降りる。

相変わらずそこにある焼却炉。
その前にパイプ椅子が三脚置いてあって、そこにお父さんとハナが座った。

どうしていいか分からずにキョロキョロしてる夕海に手招きをして隣に座らせる。

彼氏のことは男性達が運び出して、砂利の上に構わず転がした。

「さて、と」

さっき座ったばっかりなのにハナは立ち上がって、彼氏に近付いてしゃがんだ。

「何か言いたいことある?」

「何かって…」

「あるじゃん、こういう時。最後に言い残してることはあるかって。お前が無いなら夕海に聞くけど」

振り返って夕海を見たらパッとハナから目を逸らした。

パイプ椅子を一つ開けて、ハナから見て左端に座ってるお父さんは退屈そうにボーッと前を見てるだけだった。

これから一人娘が死ぬかもしれないのになんでこんなに呑気にしていられるんだろう。

こんなこと、お父さんにとっては日常茶飯事なのかな。
他人の家族がどれだけ目の前で殺されようと、いよいよ自分の家族が殺されようと感情は動かないのかもしれない。

ママの時だってそうだった。
今までどうやって生きてきたらそこまで感情を殺せるのか。

そんなこと、散々殺人をしてきたハナには言えたことじゃ無いけれど。