「二度と会えないなんて、大げさだな」

 さくらの不安を拭ってやりたくて、笑い飛ばすと、さくらが「だって」と、涙目でこっちを見上げた。
 その表情をさくらの子供の頃からよく見て来た。
 
 10歳のさくらも、25歳のさくらも愛しい。
 守ってやりたくなる。

「一郎くんは、ちゃんと、さくらちゃんの隣にいるよ」
 さくらの右頬に触れながら、小学生のさくらに言っていたように声をかけた。
 くしゃっと歪んださくらの目から大粒の涙が零れた。

「私、もう二十五だよ」  

 鼻をすすりながら、さくらが苦笑いを浮かべる。

「僕にとってさくらはさくらなんだよ」  

 さくらが意味がわからないと言うように眉を寄せる。そんなさくらの表情が可笑しい。
 クスクス笑いながら、初めて会った時、小学生のさくらに腐ったみかんを掴まされた事を思い出したと話した。
 さくらが変な事思い出さないでよと、抗議するように頬を膨らませる。

 僕は調子に乗って、さくらにされた歴代の悪戯についても話した。病人をいじめるなんて酷い。と、さくらが恥ずかしそうに布団で顔を隠した。

「ゆっくり休むんだよ」  

 部屋から出て行こうとすると、「一郎、そばにいて」という細いさくらの声がした。