桐生先輩がまだ何か言っている途中だったが、榛名先輩の怒りのこもった声にかき消された。


「ごめんごめん、そんな怒るなって」


 桐生先輩はそう言うと、私たちの方へ歩いてきて私の耳元に顔を寄せて、


「…ありがとうね、小桃ちゃん」


 と言った。


 えっ、ありがとう…?私何かしたっけ?


「おい、小桃に近づくな」


「わかったよ、じゃあね」


 その言葉を最後に、桐生先輩は廊下の角に消えていった。


 桐生先輩が見えなくなったのを確認した榛名先輩は、


「…小桃、大河がごめんね」


 と、申し訳なさそうに言った。


「いえいえ!仲良いんですね」


「…まぁね。小桃、さっき大河に何聞かれてたの」


「いえ、何も聞かれてないですけど…」


「…そう。じゃあそろそろ戻ろうか。今日はあいつのせいで寝れなかったな」


 近くの教室の時計を見ると、あと少しで5限目開始5分前だった。


 その言葉を聞いて、少し残念に思ってしまったのは、先輩には秘密。


 私は榛名先輩の横に並んで、教室へと歩き始めた。