室長はなにをする人ぞ

「夫婦で切り盛りしててね。ネタの仕入れと仕込みがしっかりしていて、味がいい。気取りがなくて、メディアで紹介されるようなお洒落な店じゃないけど」

「わあ、いいですね、そういうお店」
ネットで検索することしか考えつかないわたしとは、全然違うな。

コンビニと低層アパートのあいだの細い道を入ったところで、五嶋さんが足を止めた。
カラカラと年季の入った引き戸を開けて、濃紺の暖簾をくぐる。
こんばんは、と五嶋さんが声をかけた。

いらっしゃいませ、と年配の女性の声が返ってきた。
カウンター席と、壁沿いにテーブルがいくつか、奥に小上がりがある。こぢんまりした店だった。
お酢の香りが鼻腔をくすぐる。

奥のテーブル席に通されて、おしぼりとお茶が出てくる。

「明日も仕事だからアルコールはやめておくけど、つまみも美味しいよ」

五嶋さんの言葉で、だし巻き卵、あん肝ポン酢、えんがわの炙り、といったものを頼んだ。
まずは小料理を、それからその日のお勧めのネタを絡めて一通り握ってもらい、最後は腕もので締めるのが好きだと彼が言う。

お酒は入っていないのに、わたしは酔っているみたいだ。いや、夢見心地なのか。