「スペックだけで評価されるのは抵抗があるよ。
それこそさっき早川さんが言った通りだ。なぜ相手の価値観やら趣味嗜好といったことには無関心で、勤務先とか資格とか容姿でジャッジするんだろうと。
なんというか…適齢期と呼ばれる女性にその傾向が強い」

彼は洞察力が鋭い。きっと鋭すぎるのだ。そして自分の本心を曲げることができない。
優れた洞察力は仕事において十分に活かされているけれど、人間関係では少し鈍感なくらいがちょうどいいのかもしれない。

「そんなこんなで独身だよ」
と自嘲気味に付け足す。

五嶋さんのスペックなら、さぞかし多くの女性のアプローチを受けてきたことだろう。

「わたしが言うことじゃないですけど、すべての女性を軽蔑しないでください」
なるべく茶目っ気を出して言ってみる。

しないよ、と五嶋さんが唇を上げる。
わたしが好きな、頬にスッと線が走るあの笑みだ。

比べるのもおこがましいけど、わたしと彼は似たところがあるのかもしれない。
ふとそう思った。

異性からの望まないアプローチに(がえ)んじることができない、という意味で。
よく言えば「自分の気持ちに正直」なんだろうし、悪く言えば「頑固でめんどくさい」性質かもしれない。

そして、五嶋さんはわたしの容姿を分析はしたけれど、そこに当てはめようとしなかった。
『幼さ』や『癒し』や『愛嬌』なんかを求めたりせず、わたしの話を聞いてくれる。

そんな男性と出会ったのは初めてかもしれない。
だからこそ、もっと五嶋さんと話がしたい、彼のことを知りたいと、望む気持ちがふくらんでしまう。