室長はなにをする人ぞ



やった、と五嶋さんが快哉(かいさい)を叫ぶ。
「早川さんのお手柄だ」

「ありがとうございます!」

自然な心と体の動きだった。
どちらともなく、わたしたちは手を差し出して、短く握手を交わした。

わたしが初めて突破口を開いた(大袈裟だけど)、出来事だった。

五嶋さんは、営業部から持ち込まれた、手書きの書き込みが散らばる古い竣工図を読み込み、建築の仕様や工法を調べていた。

本来はわたしが関わるような案件ではないのだけど、少しでもできることをと、図面のコピーをもらった。
手書きの文言を拾って検索をかけていたら、五嶋さんが『2』と読んでいた文字が、『S』ではないかと気づいたのだ。

2をSに換えて調べてみたらはたして、一つの工法が検索エンジンにヒットした。

「一人で仕事をしてると、主観でしか物事を見られないから、早川さんが来てくれてよかったよ」

わたしはなにも、と答える。
謙遜じゃなくて本音だ。五嶋さんという大きな船に乗って、わたしはたまたま小魚を釣っただけだ。
それなのにそんなふうに言ってもらえて、胸がいっぱいになってしまう。