室長はなにをする人ぞ

一番多いケースは、搬入口。
工場や研究施設などで、エレベーターに載らない大きさの機材などを、二階や三階に搬入するためのドアだという。

もしくは、換気用や避難用として。建築基準法上、違法ではないそうだけど、危険なので古い建物にたまに見られるとか。
非常に珍しいケースでは、二つの建物をつなぐ渡り廊下用だったのが、片方の建物が取り壊され、ドアだけが残ったというもの。
などなど…

「へえー、そういうことなんですか」
疑問が氷解してスッキリした反面、子どもの頃の想像の翼がしぼんでしまった寂しさもある。

「そこを開けたら、空に飛び立てるドアっていう着眼点は忘れてほしくないな。
なんでも現実という地平に立って、論理的に解説するだけじゃ、つまらない」
五嶋さんがフォローするように言葉をかけてくれる。

思い切って開けてみたら、そこには違う世界が、今まで見たことのない景色が広がっている———
そんな扉の前に、ひょっとしたらわたしは今、立っているのかもしれない。

どうやって開けたらいいのか、そもそもわたしに開けられるのか、まったく分からないのだけど。