調査室に異動になって、一ヶ月がたとうとしている。

五嶋さんから調べ物のイロハを教わっているけれど、知れば知るほど難しいし奥が深い。

「品番が刻印してある製品だと特定しやすいんだけどな。なかなかそう都合よく運ばない」
五嶋さんがK社のカタログのページを繰り始める。

わたしも倣ってD社のカタログを開いた。

「あと、刑事じゃないけど聞き込みも大事。お施主さんにどこのメーカーだったか、何か覚えていることはないか、もう一度営業から聞いてもらってる」

住宅のリフォーム工事は、少なくとも十年ほど経過してから行われるのが一般的だ。
それこそ星の数ほどある内装・外装部材の、さらに過去の品番を特定するなんて、考えるだけで気が遠くなるような作業だ。

しかし五嶋巧は、それを成し遂げてきたのだ。それもたった一人で。

「あのう、もし分かったとしても、廃番になっていたり、メーカー自体廃業していたりで手に入らないことが多いですよね」
ページに目を通しながら話しかける。

「その場合は、新しい商材を提案することができるし、調査結果を報告すると、だいたいは納得してもらえる。手に入らなくても、こちらの誠意は伝わるから」