《side.本郷波瑠》

振り返れば、慎と2人きりになる機会はあまりなかった。2人でどこかに行ったとなると尚のこと。たぶん……林間学校の帰りで寄った遊園地の観覧車のとき以来な気がする。


打ち上げから一夜、家の鏡の前でどこか変なところはないか全身をチェックしてから家を出た。


10時の待ち合わせだったから早めに行くと、駅前の広場に彼はスマホを弄りながら立っていた。そばで話しかけてくる女の子たちはまるで見えていないような態度。先日の戦いでできた傷のアブナイオトコ感が相まって余計トリコにしていた。


あーあ、どうしたものか…と離れたとこから眺めてみる。あの子たち可愛いし、私なんかより彼女らと出かけた方が楽しいのでは?とか思い始めて、

メッセージアプリで『慎、その周りにいる女の子たちと出かけた方が楽しいよ』となんとも可愛げのない吹き出しを彼とのトーク画面に記した。


すると直ぐに気づいたのか視線をスマホからあげると背の高い彼は途端に私を見つけた。


私の口角は多分その時引きつってた。だって慎は少し嬉しそうにその長い足で歩いて来ていたけど、周りにいた女の子たちはキッと私を睨んできたから。


私女の子には弱いんだけどなぁ…。


「…んですぐ声かけてくれないんだ」


「慎も男の子なんだし、女の子ときゃっきゃしてた方が楽しいかと」


「……そんな訳ねえだろ」


「そう?…それにしても今日の服装は一段とかっこいいね!!で、どこに行く予定なの?」


そういうものなのかー、と口早に流すように次々に話題を変えて駅の入口へと歩き出す。数歩進んで慎が動いてないことに気づいて振り返ると、渋い顔をしている彼がいた。


「なんかした?」


「…いや。行くぞ」


刹那、まだ太陽が頂点まで来ていない青空を仰いでから慎は私を通り越して駅へと歩き出した。




そして今、私たちは動物園に来ていた。顔の傷にガーゼを当てている隣の彼はチュロスを頬張りながらウサギと睨めっこ。かくいう私も餌の人参を持ってウサギたちに与えていた。


なんで動物園をチョイスした??と聞きそうになったけど、きっと彼も連日の疲れで癒しを求めていたのか…と自己解決に至った。


所々に甘味も売っていて彼はそれを見掛ける度に列に並んだ。もちろん彼から進言があった訳では無い。


モノ欲しげな慎の視線を察知して、私が「…列並ぶ?」と言ってあげてる。まあ私も彼が美味しそうに食べる姿を見るのは好きだし、苦ではない。


そんなにも甘いものが飲むように入る彼の身体には驚いているけれど。