《side.黒鉄慎》

火天(アグニ)との決戦当日。直前まで続けられた波瑠の捜索は発展のないまま打ち切られた。昨日の防犯カメラを見たけれど、彼女は自らバーを出ていった様子だった。


出ていく前にスマホからの着信に出て、表情を歪ませていた。波瑠のあんな真剣な顔は、杏里の時以来だった。


「本当にここに火天は来るのか?」


旧製紙工場の大駐車場に来たものの、火天は全く気配を見せない。隣にいた杏里が疑うように言った。


「…乱気流は」


「青龍、黒龍が行く前に先に行くと連絡がきて、それきりだ」


____ジャリジャリ


「……お出ましのようだ」


今まで姿を表すことがなかった正体不明の火天の幹部がおそらく先頭を切って現れた。二人組の青髪だった。一人はオールバックに、もう一人は高く一本に結んでいる。


それにその二人の影から見えたのは乱気流総長、一条だった。


幹部たちの後ろから続々と多くの下っぱたちも現れる。火天の特攻服の他にも乱気流の特攻服を身に纏った者も混じっている。


「ああ…乱気流に火天に寝返らないかって持ちかけたら快く引き受けてくれたよ、なぁ」


「ずっとこの時を待っていた!!!古参ぶった龍をぶっ潰す日をな!!!!」


パッと見た限り数はこっちが少ない。持久戦に持ち込まれたら確実に負ける。一気に叩くしかない。


「それと…あんたたちの大事なお姫サマはウチの総長が丁重におもてなししてるよ」


じゃあね、と長髪の青髪が踵を返して一条ともう一人の青髪が奥へ去っていく。それと同時に下っぱたちが追い越すように叫びながら、こっちに走ってくる。


青龍・黒龍(ブラックドラゴン)の下のメンバーも負けじと走っていき、ついに火天と乱気流とぶつかり合う。戦いの火蓋が切られた。


「鳴海と杏里、彼方…あの幹部たちを追ってくれるか」


「「「了解」」」


「剣斗、俺たちはここだ」


「あいよっ!!暴れんぞ!!」


それぞれが散り散りになる。俺も剣斗に遅れをとって混乱の中へと飛び込んだ。