それに私が波瑠になったら、妹が外部から狙われることは無くなる。守ることができるんだ。たった一人の妹を。

波瑠が私をどう思っているのかは知らない。だけど私は彼女の姉だから。それはどう足掻いても変わらない事実。お姉ちゃんは妹を守るもの、でしょ?


本邸から百合の宮に帰ってきてからずっと匡は静かだった。元々口数が多いタイプじゃないかれど、私たちの間には不自然な沈黙がある。


「例え誰一人お前をリリィと呼ばなくなっても…俺はちゃんと覚えてるから」


「匡は…優しいね」


「リリィと初めて会ったあの雪の日。あの時からずっと俺はお前のものだ。…これから先も、お前が望んでくれる限り」


重たいか?と彼は続けた。不安そうな瞳で一直線に見てくるものだから、私は少し笑みを浮かべて顔を横に振った。


「…波瑠様として生きなくちゃいけなくても、きっとお前の本当の姿に気づいてくれる人は現れるよ、ハル」


私は用意された波瑠に似た髪色のウィッグを被って鏡を見つめる。


これから私は本郷波瑠の影武者としてハルになる。お気に入りの母と同じ色の髪を隠して。



さようなら、リリィ・キャベンディッシュ。


いつの日か、こんな私を受け止めてくれる人が現れるその日まで。