《side.本郷一》

全てがくだらなかった。家庭内の権力争いも、家紋同士の争いも、自分のことだって。つまらない、面倒。

人間はどうしてこうも愚かなのだろうか、とジジイどもを見ているだけで思った。


誰が次代の本郷家当主になるか、と俺の父は問う。当主の座など興味はなかったが、自分の上に誰かが立つのは腹ただしいし、父の支配する本郷家はいささかくだらない。

だから父親も兄弟たちもこの手で殺してやった。


下克上を果たした俺を憎む家紋があった。暗殺を企て、実行しようとしていた。


一族諸共皆殺しにした。そして俺は恐怖で本郷家を御三家の中で最も強い勢力を持つ家にした。


「……一様、これからは大黒天内での会議とその後宴会がありますのでお支度を」


気崩された浴衣で座り心地の良い椅子に座って書類に目を通していた俺に執務室に入ってきた流水は言った。


阿久津流水、この男は何が好きで俺に仕えているのか分からない。元々阿久津家は本郷家当主の側近を代々輩出してきた。


それだけで、お前もここに居るのかと以前聞いたことがある。それなら俺には護衛は必要ないから好きに働けと。


『いいえ、私は一様に仕えたくここに立っています。あなたの盾となり、剣となるために』