そしてこの週末、わたしは昼番での勤務だった。
 出勤早々、衣装ケースいっぱいに詰め込まれた埃まみれの本の買い取りをし、今にも底が抜けてしまいそうな段ボールいっぱいのCDの買い取りをし、ひたすら販売レジを打ち、売り場に飛び出し、すかすかの商品棚を埋めた。

 夕方五時に夜番のみんなが出勤してきて、ようやく休憩を取ることができたけれど、もうくたくたでへとへと。水分補給をして、スタッフルームの長机にお弁当を広げたけれど、すぐには食べられそうにない。

 しばらく長机に伏せていようと、腕に頭を乗せた、とき。

 ノックもなくスタッフルームのドアが開き、驚いて飛び起きた。もしかしたら、長椅子からお尻がりんご一個分ほど浮いたかもしれない。

 入って来たのは、疲れた顔の店長だった。店長は冷蔵庫から自分の名札付きのペットボトルを取り出し、わたしの正面にある椅子にどかっと腰を下ろす。そして流れるように、机に置きっぱなしだった煙草と、青年漫画に手を伸ばした。

「……店長、店長の休憩時間はまだ先では?」

 朝番昼番夜番の三交代の勤務とはいえ、店長を含めた社員の方々の出勤時間は少し異なっていた。
 朝の場合はアルバイトより一時間長い夕方六時まで。夜の場合はアルバイトより一時間半早い十五時半から。
 今日店長は夜番で、十五時半の出勤。昼から働いているわたしと、休憩時間が同じなんて有り得ないのだ。

 聞くと店長は眉間に皺を寄せて低く唸る。

「出勤早々トイレ掃除と、そのあとすぐにお客様対応をした。ちょっと休憩させて」

 そういえば今日、昼に店のトイレが詰まった。男子トイレの個室から水が溢れ、汚れた水でトイレの床が水浸しになっていた。店長はお隣のショッピングモールまで走ってラバーカップを買い、結構な時間トイレに籠ることになってしまった。

 ようやく売り場に戻ると、今度はゲームソフトの動作不良だと言うお客様の対応が始まった。対応はわたしが休憩に入る頃も続いていたけれど、どうやら今終わったらしい。

「今、お客さんも引いているし、いい?」
「店長なんですから、アルバイトに許可を取らなくてもいいですよ。お疲れさまです」
「ん」

 商品について怒っているお客様の対応は、アルバイトのわたしたちではなかなか難しい。わたしたちが誠心誠意説明をしても「バイトの小娘じゃ話にならん、店長を呼べ!」と言われることもある。

 だから店長は、休日であっても退勤後であっても閉店間際の深夜でも、何かあれば店に飛んで来ることになった。それほど頻度が高くない、というのが救いだろうか。

 ぐびぐびとお茶を飲むたび上下する店長の喉仏をぼんやり眺めていたら、急に店長が動きを止め、こちらを向いて「崎田さん」とわたしの名を呼ぶ。

 しまった、眺めすぎたか、と焦っている、と。