店長に開けてもらった左耳軟骨のピアスは、順調そのものだった。翌日には痛みも赤みも熱も引き、開けたことを忘れてしまうくらい普通に生活できた。

 六つ目のピアスの存在を思い出したのは、休みを挟んだ出勤日。夕方のスタッフルームでだった。

 店員共通の黒いエプロンを着けていた、いずみんこと森野和泉が、見事な二度見を披露したあと「軟骨に穴開いてるじゃん!」と叫んで、わたしの肩を掴んだ。

「ああ、うん、開けてもらった」
 平然と答えると、いずみんはその軽さにさらに驚愕した。

「邑子が……あの邑子が、六つもピアスを……」
「どの邑子なの」
「人の怪我を見て、痛そうで痛いって言って両手で目を覆っていた純粋な邑子」
「それ子どもの頃の話ね」

 わたしの子ども時代を知るいずみんは、小学校高学年から、中学生までの同級生だった。ずっと同じクラスと部活動で仲良くしていたけれど、親の転勤で高校生のときに県外に行ってしまい、去年またこちらに戻ったらしい。
 引っ越してからの交流はほとんどなかったけれど、今年偶然この店で、同じスタッフとして再会を果たしていた。

「あの邑子が五つもピアスをつけてるってだけでもびっくりしたのに、軟骨にまで穴を開けて! 誰なの、邑子の骨に穴を開けたのは……!」

 この問いに答えたのは、わたしではなかった。背後から「ごめん、俺……」と申し訳なさそうな声が聞こえる。
 振り返らなくても分かる。艶のあるテノールの声。店長だ。

「……店長が、邑子の身体に穴を……?」
「いずみん、言い方考えよう」

 いずみんに怪訝な表情を向けられた店長は、苦笑しながらスタッフルームの奥へ歩を進める。手には連絡ノートがある。もうすぐ夜番の勤務開始時間だ。少し早いが、夕礼のためにやって来たのだろう。

 ピアスホールを開けたのが店長だと聞かされたいずみんは、わたしの身体に穴を開けた人物に追及することなく「痛かったねぇ邑子、今度泊まりにおいで、旧友のわたしが責任持ってなでなでしてあげるからね」とわたしの頭を撫でた。

「子どもか!」
「邑子ちっちゃいから」
「わたしのほうが誕生日が早い」
「背はわたしのほうが高い」

 いずみんが店長に対して「責任をとれ」なんて無責任な発言をしないのは分かっていた。

 もしこの人が独身であったなら、冗談交じりに「邑子の身体に穴を開けたのだから、責任とって食事にでも連れて行ってやるべき」なんて言っただろうけど、既婚者にはそんなこと、冗談でも言えないのだ。