帰り際、彼女は安堵の表情を浮かべていた。

彼女が僕を連れて行ったもう一つの理由がなんとなくわかった。

普段我々が営業する相手は男性が多い。

しかし僕は他の営業に比べると女性を相手にすることが多い。

でも彼女はあえてそれを言わなかったのだろう。

プライドか気遣いかはわからないが、お世話になっている上司の役に立てただけでもよかった。

彼女はお礼に夕食を奢らせて欲しいと言った。

今晩は葉月の帰りも遅いし、せっかくだったので行くことにした。


仕事を終えると我々はタクシーに乗り居酒屋へと行った。

彼女とご飯を食べるのは久しぶりだった。

彼女も役職の位があがり忙しいのだ。

ビールを二杯注文しホルモンの鉄板焼きとシーザーサラダを注文した。

私もまだまだ説明不足なところがあるのよね、きっと。

彼女はそう言うとため息をついた。

「お客さんでも相性の良し悪しはありますよ」

彼女は黙っていた。

率直に言ってしまったことを後悔した。

彼女はビールを飲み干すとおかわりを注文した。

僕は煙草に火をつけ彼女の話を待った。

「きっとあのお客さんは今度あなたに注文すると思うわ」

「じゃあその時は先輩の売上にします」

そう言うと彼女は笑って首を振った。

彼女が何を考えているのかはわからなかったが、どこか疲れているようにも見えた。

「また僕なんかで良ければ頼ってください。今日みたいに契約が取れる自信はありませんが」

そうするわと言い、二杯目のビールを飲んだ。

「みんなも先輩の頑張りや結果を尊敬してます」

そう言うと彼女は僕の手の上に手を乗せた。

一瞬どきっとしてしまった。

彼女は目の前の料理をぼんやりと眺めていた。

「帰ったらゆっくり休んでください」

彼女は首を振り何かを言いかけたがやめた。

二杯目のビールを飲み終えると三杯目のビールを注文し食事を始めた。