「おーい、羽奈」

 こんこん、と部屋のドアが叩かれて私はどきっとした。

 出雲くんの声だ。

 出雲くんが引っ越してきてから、もうすぐ一ヵ月。

 九月も半分を過ぎたある夜のことだ。

 私は宿題をしていたのだけど、急に訪ねてこられるなんて。

 もしかして今日は配信の日だったとか?

 それとも配信じゃなくても、それ関係の収録があるとか?

 忘れていたんだろうか。

 それじゃ迷惑をかけちゃったかもしれない。

「は、はーい!」

 私は急いで椅子を立ってドアへ向かう。

 ガチャっと開けると、いたのはもちろん出雲くん。

 私を見てほっとした顔をするから、私は違う意味でどきっとした。

 こういう穏やかな顔を近くで見られれば、嬉しいしどきどきしてしまう。

 それに出雲くんは部屋着姿。

 まだ暑さが引かないからTシャツにハーフパンツ姿、薄手のパーカーを羽織っていた。

 プライベートな姿に、違う意味でもどきどきしてしまう。

「おう。今、いいか?」

 出雲くんは気軽な調子で言うので私はうなずいた。

「うん、いいよ。なにか()るの?」

 でも出雲くんはちょっと言葉をにごす。

「あー、録るわけじゃないんだけど、お前に聞きたいことがあってさ」

 髪に手をやって、言いづらい、という様子になったから私は軽い調子で、うながすように言う。

「うん? なに?」