「あ、ちょっとそこ寄ってっていい?」

 駅まで来たとき、出雲くんがふと一方を指差した。

 そこには駅ビルの入り口がある。色々お店が入っているのだ。

「うん」

 私は言葉にして突っ込むタイミングを失ったような気になりつつ、うなずいた。

 でも出雲くんの目的だったお店に着いてびっくりした。

「予約してた志摩です」

 出雲くんが名乗ったことに、店員のお姉さんはにこにこして「お待ちしておりました」なんて答えている。

 店内はガラスのショーケースがたくさん置いてある。

 中には指輪やネックレスやピアス……繊細(せんさい)で美しいアクセサリーが陳列されていた。

「こちらでお間違いないでしょうか?」

「はい」

 どういうこと?

 どうしてアクセサリー屋さんに?

 しかも予約ってなにを?

 戸惑う私をよそに、出雲くんはさっさとお金を払ったりして、手続きを済ませてしまったようだ。

「じゃ、帰るか」

 小さな紙袋を受け取って、出雲くんは当たり前のように、きゅっと私の手を握ってきた。

 私は違う意味で目を見張ってしまう。

 出雲くんの行動にまったくついていけない。

 手は大きくてあったかくて、ちょっとごつごつしている。

 それで私の手をすっぽり包んでしまうのだ。

 私がおろおろしているのはわかっているだろうに、出雲くんは握った私の手を引いてお店を出た。

「ありがとうございました」

 お店のお姉さんは笑顔で見送ってくれたけれど、私は手を繋がれたことに意識がいっぱいで、返事もできなかった。