「え!? ……あ、はい、これ! 待たせてごめんなさい」

 つい声を上げてしまってハッとした。

 出雲くんだって、ついいつものように言ってしまっただけだろう。

 それなら突っ込むほうが不自然だ。

 なので私は必要以上ににこっと笑ってノートを差し出した。

 しかし私の努力は粉々になった。

「いや、さんきゅ。羽奈、今日、部活とかある? 一緒に帰らね?」

 今度、私は固まった。

 一体なにを言われているのか。

 いや、言われている内容は普通だ。

 ……家でなら。

 学校で、出雲くんのクラスで、こう言われるのが不自然すぎるだけで。

 だって色々とまずいのでは。

 私がおろおろしていると、そこへさっき呼んでくれた男子が出雲くんの肩を小突いた。

「なに、名前呼び捨てとか、すげー。彼女?」

 からかうようで、本気だとは思っていないという様子だった。

 でもそれは本当のことだ。

 私の胸は、どくんと跳ねあがった。

 いけない、これじゃ出雲くんの迷惑になってしまうかもしれない。

 よって「違います」と言おうとしたのに、それは出てこなかった。

「そうなんだ。こないだ付き合うことになってさ」

 出雲くんはごく自然な様子で言って、それだけではなく、ぐっと私の肩を抱き寄せた。

 戸惑っていた私は簡単にバランスを崩して、出雲くんの体に寄りかかる形になってしまう。

 なに、これは、一体どうしてこんな事態に?

 ヒミツじゃなかったの?

 いや、それ以上にこんなふうに抱き寄せられてしまってるなんて。

 しかも人前なのに……。

 どくどくっと鼓動は速くなるし、顔が熱くなるのも感じられた。