「失礼しまーす。志摩先輩、いますか?」

 教室をそっと覗き込む。昼休みになったばかりの教室内は、ざわざわしていた。

 学食へ行く子、友達同士、机を固めてお弁当を食べる子、色々いるけれど、まだみんな移動中といった様子だ。

『志摩先輩』と学校での呼び方で出雲くんの名前を出した。

 下の学年で、なんの関係もないと思われているのだから、こう呼ぶのが普通だろう。

「おー。二年の子じゃん。志摩? いると思うけど」

 入り口近くにいた男子の先輩が、私を見て珍しそうに言った。

 教室内を見回して「おーい! 志摩!」と呼んでくれる。

 約束していたのだ、奥からすぐに出雲くんが出てきた。

「ありがとう、羽奈」

 しかしそこですでに私は驚いた。

 だって家で呼んでいるように名前を呼び捨てで呼ばれたのだから。

 学校で教室なのだから「鳴瀬さん」とか呼ばれると思っていたのに。

『出雲くんに女子のお客さん』と意識していたらしい、女子の先輩たちも同じだったようだ。

 奥でチラチラこちらを見ていたその子たちから、息をのんだ空気が伝わってくる。