「配信日はずらせないから、仕方なかったんだよ」

 しかし次に言われたことはすまなさそうだった。

「そ……うなんだ。そっか」

 私は意外に思ってしまう。

 さっきはあんなにじとっとした目で見てきたのに、私を気づかってくれるような言葉だ。

「防音なのはお前の部屋だけだし。ここしかなくて」

 すべて疑問は解けた。

 私は部屋のすみに視線を向ける。

 なるほど、これのためか。

 そこには小さいピアノが置いてある。趣味で弾いているピアノ。

 いつでも練習できるように、私の部屋は簡単だけど防音にしてもらっていた。

 確かに配信というなら、普通の部屋より防音のほうが都合がいいんだろう。

「わ、わかったよ。それじゃ仕方ないよね」

 私はうなずいた。

 出雲くんの配信、つまりお仕事にも近いことだから文句なんて言えない。受け入れる返事をする。

 出雲くんもほっとしたようだった。

「そうだろ。そんなわけで、これから週に三回くらい借りるから」

 しかしそれには私は肩を落とす。

 つまり週に三日、数時間ではあるものの、部屋は使われてしまうということだ。

「うう……仕方ないか」

「仕方ないとは失礼な」

 受け入れたのに、返ってきたのは図太い返事だった。

 ああ、一緒に住むのは「そうなんだ」で片付けてしまったのに。

 部屋に関してはあまり良いことではなくなってしまった。

 別に出雲くんの活動が嫌なはずはない。

 ただ私のプライベートが少々、侵食されてしまいそうだというだけだ。