私は納得しかけたのに、多分それは正解ではなかった。

 さら、と出雲くんの手が私の髪に触れる。

 さらさらと軽く手で()かれた。

「髪、綺麗だな」

 頭に触れられたのであたたかい。

 それにその声は頭のすぐ上から聞こえるし、その言葉を発するために胸が動くのすら自分の体で感じてしまった。

 落ちつきかけた鼓動は、またどきどき、ばくばくと速くなってしまう。

「そ、そう、かな?」

 なんとか答えたのに、混乱ははっきり声に出た。

 いや、この状況で「ありがとう!」なんて無邪気に答えられるわけがないけど。

「ああ。バニラの香り、好きって言ったろ」

 しかもそう言われてしまって、ぼふっと頭の中で熱いものが弾けた。

 そうだ、少し前……もう一ヵ月近く前だろうか?

 ピアノを弾いていたとき、肩を抱いてそう言ってくれた。

 あれと同じことを、今はもっと衝撃的な状況で言われるとは思わなかった。

 嬉しさより、動揺と混乱、それから一番は恥ずかしさに頭がくらくらする。

「こんな近くで感じられるとか、雷で良かったかも」

 私のその様子がおかしかったのか、出雲くんはそんなふうに言った。

 それは流石に茶化しているのだとわかったので、私は今度はあまり動揺せずに答えた。

「な、なに、それ」

 本当に、出雲くんときたらなにを考えているんだろう。

 もっとわからなくなってしまう。

「なにって……羽奈とこうして寝られるんだから」

 しかし返ってきたのはその言葉。