出雲くんからは別の依頼を受けていた。

 またピアノの曲を一曲弾いてほしいと頼まれたのだ。

 断る理由なんてない。

 あのときBGMを引き受けたのも楽しかったし、ああいう経験ができるなら私も嬉しい。

 言った通り、勉強や練習になるし。

 ただ……。

「そうだ、せっかくだからちょっと歌って合わせてもいいか?」

 出雲くんが不意にソファから立ち上がった。私は少し驚く。

 そう、これは確かに出雲くん……IZUが使う音源ではあるけれど、BGMとして使うだけではない。

 IZUがこのメロディに乗せて歌うこともあるつもりで、と言われている。

 歌と合わせて録るよりハードルは低いけれど、それでも歌と合わせる、しかも出雲くんが歌うつもりで弾くというのは、どうしても気を張ってしまう。

 前回よりもっと頑張らないとだろう。

「わ、わかった。じゃあ……」

「ああ」

 出雲くんはピアノの椅子に座る私のすぐ横まで来て、隣に立つ。

 お腹に手を当てて、すぅ、はぁ、と息をした。

 私はまたどきどきしてしまうのを感じながら、再び鍵盤に指を乗せる。