ある日の練習。

 それは雨が降る夕方のことだった。

 窓の外は少し強めに雨が降って音を立てていたけれど、私の耳にはピアノの音だけがあった。

 集中しているのだ、別の音に気を取られている場合ではない。

「すごいうまくなったじゃん」

 私が一通り練習を終えたとき、うしろのソファに座って聴いていた出雲くんは、小さく拍手をしてくれた。

 私は振り向いて、出雲くんに向き合う形で座り直す。

「ありがとう」

 お礼を言った。

 学校のクラスで練習するときもほめてもらえるけれど、今は少し違う気持ちになる、と思ってしまう。

「こりゃ、二年は羽奈のクラスが賞を取りそうだなぁ」

 おまけにそこまで言われてしまう。

 表彰は学年別だから、出雲くんのクラスと競うことはないのだ。

「そ、そうかな!? そうだといいけど……みんな練習頑張ってるし」

 私は照れてしまう。

 伴奏も合唱の一部であるのは本当だから。

 それを指して言ってもらえたら嬉しい。

「いや、羽奈も頑張ってるだろ。頑張ってるからこんなうまくなってるのに」

 しかし今度は合唱ではなく、私についてを言ってくれる。

 私は嬉しさに頬が熱くなるのを感じた。

「本当に、伴奏練習もあるのにごめんな。また別のを頼んじゃうとか」

 そこで出雲くんが不意にそう言ってきた。

 私はすぐ否定して、にこっと笑った。

「え、ううん! いいんだよ。色々弾けると練習になるもん」