今度こそ顔は真っ赤になっただろう。

 シャンプーの香りなんて感じられてしまった。

 おまけに『シャンプーが』ではあるが、確かに私のまとっていたものを指して『好き』なんて言われて。

「ありがとな。じゃ、俺はそろそろ部屋に帰るわ。また練習の具合とか聞かせてくれよな」

 私が真っ赤になって動揺しているのは気付かれたのか、そうではないのか。

 出雲くんはさらりと帰ると言った。

 なのに帰る前、また肩に、ぽんと手が乗った。

 ただのあいさつだったのかもしれない。

 でも私の心臓は、とくんっと跳ねる。

「う……ん。おやす、み」

 なんとか言った。

 それで出雲くんは出ていった。ぱたんとドアが閉まる。

 私は数秒、動けずにいたけれど、やがてそろそろっとドアのほうを見た。

 もう部屋に帰っちゃったよね?

 そう思ってやっと、そーっと息を吐きだした。

 はぁー……と長い息になる。

 びっくり……したぁ……。

 胸の中でため息のように吐き出して、確かめる。

 あれは現実だったのだろうか。

 出雲くんとあれほど近付いてしまった。

 体が触れてしまった。

 肩を抱かれるように触れられた。

 そして耳元で、いい香りだって……。

 思い出すとまた顔が真っ赤になりそうで、私はそっと頬を押さえた。

 錯覚かもしれないけれど、熱いように感じてしまった。それほどほてってしまったようだ。

 なんであんなことをされたのかわからない。

 でも確かなのは、この曲を練習するときには、あの出来事を絶対に思い出してしまう。

 そのちょっと困ってしまう確信だった。