♢ I
《side.藤野佑真》

「あちゃ〜、ここどこだろ」

昨日からバイクを修理に出していたため、電車で白虎の倉庫に向かうという慣れないことにしたのが運の尽き。どうやら反対方面の電車に乗ってしまったようだった。……やっぱり敦に迎えにきて貰えばよかった。


今日は集会とかもないし総長に呼ばれてるわけでもないから大丈夫か……と今日すべきことを思い出しながら知らない駅のホームで空を仰いだ。


海が近いのかここからでも潮の香りがする。降りた駅は無人駅のようで改札はない。ホームに晒された箱に切符を入れると構内に入った。壁に貼ってある剥がれかけている時刻表を見ると三時間ほど次のが来るまで空きがある。


「散歩でもして時間潰すしかないか」


一歩駅から出れば、都会の喧騒が嘘のように蝉の声が響いていた。心地よい風が吹き抜ける。遠くからはおそらく小学生であろう男の子たちの楽しそうな声が聞こえた。


いつか愛する人と出会って、こういうのどかなところで生活したい。春になったら二人で庭に種を蒔いて、夏になったらその花や野菜を見ながら肩を並べる。


そんな想像をしながら歩く。しばらく歩くと駄菓子屋が見えた。少年心くすぶる昔懐かしい感じのお店。